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燭台切の叫びが耳をつんざき、そのたくましい背中が男と長谷部の間に割り込んできて、目の前が黒一色に染まりました。
同時に、長谷部の身体は舟首へ押しやられ、壁へしたたかに背を打ち付けました。燭台切に押されたのです。
その瞬間、長谷部の目の前で、ぱっと血しぶきが散りました。燭台切の身体が、ゆっくりと長谷部の方へ倒れてきます。
ずしり、と重い身体を両手で受け、長谷部は呆然としていました。
(燭台切が、俺を庇ったのか)
もういいと諦めた長谷部の前に、燭台切は諦めずに駆けつけて来てくれたのです。そして、長谷部の代わりに傷を負いました。
「長谷部くん……大丈夫かい」
荒い息を挟みながら、燭台切は首だけ捻って長谷部に笑いかけました。
「お前の方こそ、出血しているだろう」
「少しかすっただけだよ。それより君が何もなくて、よかった」
その言葉に、長谷部はようやく目が覚めた心地がしました。
36.
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