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声の主は白い布をかぶっていて、顔どころか腰のあたりまで隠れており、真っ白いシーツのおばけのように見えました。
「主がいるにこしたことはない。自由は、幸福と等しいわけではないだろう」
おばけの言葉に、長谷部はどきりとしました。まるで自分が話しているように思えたからです。
ウサギは何か言いたそうに口をもごもごさせていましたが、ぐっと飲みこむような動作をした後、ぱんと両手を叩きました。
「そうでした。お二人は、道に迷ったんでしたね。きっと主さんも待っているでしょう。この道を真っすぐ行くと、森を抜けられます」
ウサギの指さす先には、たしかに光が見えていました。
長谷部は、不思議なことにその光の向こうを目指すよりも、ここで留まりたい気持ちにかられました。ここの元刀たちは、長谷部にとって何かとても大切なことを知っている気がしたのです。
けれども、主と本丸を捨て置けるはずもありません。長谷部と燭台切は森の住民たちに別れを告げ、光に向かって歩き始めました。
「ねえ長谷部くん、刀って、あんな風に生きられるんだね。希望がわいてきたよ」
「……お前も修行したいのか?」
「ううん、刀を振るわなくとも、自然に囲まれて、のんびり過ごすのも楽しそうだなって。ほら、長谷部くんもカボチャを一刀両断だったし意外と料理も向いてるかも」
長谷部は少し立ち止まって、楽しそうに語る黒い背中を眩しそうに見ていましたが、長谷部が隣にいないことに気付いた燭台切が「長谷部くん?」と呼んだものですから、慌てて後を追っていきました。
森を抜けると、また目の前がピカッと光って、二人の姿はふわりと浮き上がっていったのです。
着いたのは、きらきら輝く川のほとりでした。
20.
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