長谷部は寂しくなった手を握りしめながら、どうしたらよいかわからずに立っていたのですが、しばらくするとウサギが傍にやってきました。
「長谷部さんは料理に興味ありませんか? 楽しいですよ」
「俺は包丁ではないぞ」
「でも、もう刀が主役の時代はとっくに終わったんですよ」
長谷部はびっくりしてウサギを見つめました。
「お前たち、まさか刀なのか?」
指をさされたウサギとクマは顔を見合わせ、同時に笑い声をあげました。
「昔は刀でしたよ。今はすっかり毛もふさふさ生えちゃって」
「本丸はどうした? まさか、主を捨てたのか?」
「我らの本丸はずいぶん前に解体された。そこで、こうして修行に励んでいる」
クマは高らかにカカカと笑いました。
「戦が終わったならば、己の今を知り、向かうべき未来を思索せねばなるまい」
クマは太刀の切っ先で、木からレモンを切り落としました。
「拙僧は元より祈りのための刃。このように使えば、国広も本望であろう」
長谷部には、よくわかりませんでした。刀は刀です。主の敵を斬って、主の道を切り開くために生まれたのです。
「刀も、主に仕えるだけじゃないってことだね」
よく通る声が長谷部の胸をぐさりと貫きました。理由はわかりませんが、長谷部の心臓はどくどくと激しく脈打っています。
「うむ、その通りだ、どこかの燭台切! 拙僧の本丸にいたお主も、格好よくありたいと息巻いていた……。だが、まだ極めておらぬようだな」
「きわめて、ってなんだい?」
クマはちょっと目を見張りましたが、すぐに元のようにカカカと快活に笑いました。
「知りえなくとも、お主ならきっと辿り着けるだろう」
「それはどうだろうな。俺は主がいなくなったら、自信も一緒に消え失せてしまった」
ひやりと冷たい空気を引き連れて、別の声が入ってきました。
19.