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 気づいた時には、長谷部は夕闇の中にいました。ひとりきりで小舟に乗って、さっきの川を下っていたのです。

 

「長谷部くん!」

 長谷部が声の方を振り返ると、一葉の小舟が近づいてきていました。黒い人影が、ふと提灯に照らされます――燭台切です。あんなに格好良さにこだわる刀が、必死に櫂を漕いでいました。

 

「長谷部くん、待って。もう止まってくれ」

「止まれと言われても、舟が勝手に進むんだ」

 

 長谷部はもうどうにでもなれ、と投げやりな気持ちになりました。

 

(主は俺を置いていった。……また置いていったんだ)

 

「ハロウィンの夜が来てしまったんだよ!」

 必死で叫ぶ燭台切とは裏腹に、長谷部はふと周囲の暗がりを懐かしく思いました。日の当たらない世界を歩むのはどのくらいぶりでしょう。

 夜が来るのは、ずいぶん久しぶりでした。

27.

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