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数秒後、長谷部の乗っていた小舟の先端が、粉々にはじけ飛びました。大部分が残り、いまだ浮かんでいる舟上には、抜き身の刀を携えた男が音もなく立っています。
(この男、気配を感じなかった……!)
長谷部を舟の後方に降ろし、燭台切が庇うように長谷部の前に出ました。
「これでも実戦向きでね!」
燭台切の刀は、男の肩から斜め下へ向かって振られましたが、その刃が届くころには、男は飛び退っていました。空振りをした燭台切光忠は、闇夜をひゅっと切り裂きました。
すると闇が猫の形に切り取られ、まるで生きているかのようにぴょんと墓石に飛び乗ったのです。思わず二人が後ずさると、ゆらゆら揺らめく猫の影は、にゃあご……と地を這うような声で鳴いてから、
『俺は主に捨てられたんだ』
34.
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