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川べりを歩いていくと、一人の青年が立っていました。短い水色の髪に、優しげな表情が水面を写しとったようでした。
(彼、どこかで見たことがあるような……)
燭台切は記憶を手繰り寄せながら、青年に尋ねました。
「そこの優しそうな君、僕らの本丸を知らないかい? レンガ造りでかっこいいんだけど」
青年は首を左右に振りました。
「申し訳ございません。実は私も、自分が誰なのかすら思い出せないのです」
燭台切と長谷部は驚いて顔を見合わせました。
「ちょっと待って、僕は君を見たことがあるよ」
「俺もだ。何度も言葉を交わした! ……ような気がするぞ」
「あっははは、あなた方の知り合いならば私も安心です」
青年は緊張が解けたのか、朗らかに言いました。
「しかし、そんな幸運はまずないでしょうな」
「どうしてだい?」
青年の黄桃色の瞳が流れてゆく者たちの影を映しました。
「ここに流れ着くのはみな、誰からも忘れられたものです」
長谷部が小さく息を飲みました。燭台切は、彼が「前の主のことは忘れることにした」と言っていたのを思い出して、もう一度手をつなぎました。
(絶対に長谷部くんの手を離しちゃいけない)
22.
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