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「僕らの時間は、2015年で止まっているだろう」

 長谷部は舟底へ視線をそらしました。

「確かに本丸はあるんだ。……主がいなくても」

 長谷部はぎりと歯を食いしばり、言葉を飲み込みました。

 

 主は俺を置いていかない。主はまた置いていった。主はみんな置いていく。主は、主は、あるじは……?

 いろんな感情がいっぺんに爆発して、頭がおかしくなりそうです。

 

「長谷部くん。僕も、主がたった数週間で審神者をやめてしまったのは残念だったよ」

「主はっ、やめてなどいない!」

 

「……初めは僕もそう思った。数日も経てば、主は顔を出してくれるだろう、ってね。でも彼は帰ってこなかった」

 長谷部は、舟底をだんと叩きました。

「黙れ」

 

「それでも残された僕たちは、主の帰りを待つことにしたんだ。交代で出陣して、内番をして、遠征に行った。戦以外のことも結構やりがいがあるなと思ってきた頃だった」

 燭台切の視線が、うつむく長谷部を貫きました。

 

「ハロウィンの朝、君が、本丸を飛び出したんだ」

 

 辺りはしんと静まりかえりました。

29.

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