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 燭台切は改めて心に誓いました。動物たちの森で、久しぶりに料理をしたものですから、夢中になってしまって忘れていたのです。

「私もああしてここに流れ着き、少し前から渡し守をしております。時たま、うっかり迷い込んでしまう方がおりますから、元の場所へお返ししているのです。ここにあなた方の本丸が流れているとは思えませんが、念のため少し見回ってみますかな?」

 

 二人は渡し守の申し出をありがたく受け、川べりにつながれていた小舟に乗り込み、少し川を下ってみました。けれどもやはり、本丸も主も見当たらないのです。

 行き交う人々は、みな笑顔で三人に手を振ってきます。

 

「お前たちは、どこへ向かっているんだ?」

 長谷部が問うと、子どもはにっこりと笑いました。

「川をずっと下った先だよ。そこに妻がいるんだ」

 

「その人間は、お前を覚えているのか?」

「わからない。でも、あのひとを忘れて向こうへ送ってしまったのはわたしだから、行かないと」

 そう言って、子どもは勢いよく漕いでいってしまいました。長谷部は子どもの舟を目で追っていたのですが、途中でふっと煙のように姿を消してしまったのです。

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「あの方、向こうで再会できるといいですね」

 渡し守は静かに言いました。

 長谷部はようやく、この川が誰を運んでいるのか飲み込めたような気がしました。

23.

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