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彼の頭からは、長い耳が伸びていました。それどころか、顔じゅうが茶色い毛で覆われていて、黒い鼻はせわしなくひくひくと動き、突き出た口元からは白い前歯が出っ張っているのです。
「おい、主はどこだ、ウサギの化け……」
途中で燭台切に口を塞がれましたが、ウサギは気にする様子もなく、胸の前で手を合わせて喜びの声を上げました。
「プラムを届けに来てくれたんだね。ありがとう」
その声に、二人は顔を見合わせました。どこかで聞いたことのある声です。
「いや、俺は食べたが届けに来たわけではない」
長谷部が正直に言うと、ウサギはどこからか脇差を取り出して、傍の木になっていたプラムをぽいぽいと籠の中に入れました。
長谷部はその刀さばきが美しいことに、燭台切は音のない所作に驚きました。
「わあ、ありがとう! さあ早く、君たちは元来た道を戻るとい――」
ウサギが言い終わる前に、後ろからぞくぞくと動物の人びとがやってきて、わっと歓声を上げて二人を取り囲みました。
15.
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