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「ハッピーエンドは、自分で掴み取りたいんだ」
「ご立派な心掛けだ」
鏡の長谷部はふんと鼻で笑い、まだ迷いを捨てきれない同じ顔の方を向きました。
「ここなら、忘れようと努力しなくてもいい。まだ主を捨てきれない『俺』が残るのか、新しい主を見つけた俺が残るのかはわからないが、どちらにしろ悲しむことはないんだぞ」
鏡の長谷部は微笑みながら手を差し出してきました。
近づいてくるその手は、やがて鏡を突き破り、長谷部の目と鼻の先でぴたりと止まったものですから、長谷部はびくりと肩を震わせました。
それを見た燭台切は、つないだ手をぎゅっと強く握りました。
「悲しんだってかまわないよ。僕は、どんな道だって長谷部くんと歩きたいんだ」
燭台切の言葉に、長谷部ははっとしたように繰り返しました。
「悲しんだって、かまわない……」
「そうさ、長谷部くん。悲しい時は、僕と一緒に悲しもう」
二人は手をつないだまま、鏡の裏へ向かいました。
すると、鏡に映っていた二人は、まるで吸い込まれるように町に背を向けた二人の姿へ重なり、一つになりました。
「さようなら、悲しみを忘れた刀たち」
燭台切が呟いた瞬間、また目の前がピカッと光って、二人の姿は白い光に包み込まれ、見えなくなってしまいました。
次に目を開けた時、二人は木々に囲まれていました。
12.
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