top of page
「君は、主を探しに行くと言って、カバンを持って飛び出した。だから僕は、君を連れ戻すために一緒に来たんだ」
長谷部は拳をぎゅっと握りしめました。
長谷部だって、もうわかっていたのです。いろんな世界を巡れば、主に再会できる、なんて夢物語です。長谷部がやみくもに探したって、主はもう戻ってこないのです。
「僕の『カバン』は壊れてしまったけど、まだ本丸に戻る手立ては残っている」
長谷部はどきりとして胸に手を当てました。
「そうだろう、長谷部くん」
燭台切の視線は、長谷部の手に注がれています。長谷部がごくりと唾をのんだ瞬間、楽しそうな笑い声が張りつめた空気を吹っ飛ばしました。
「やあ、やっと来たか。待ちくたびれたぜ!」
「誰だ!」
長谷部が辺りを見回すと、いつの間にか二葉の小舟は、花畑の真ん中を突っ切っていました。彼岸花が辺り一面に咲いており、突然の鮮やかな赤に、長谷部の目はちかちかしました。
その中で、ぽつんと白い目立つ点がありました。
「ここが『終点』さ。君たちの墓石はもう用意してあったんだぜ?」
白い着物のほっそりした男が、大きな岩の上に座って笑っています。
30.
bottom of page