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それは、長谷部たちの現実を通り越して、美しい夢を見るような声でした。長谷部が否定しようとした時、近くでわっと歓声が上がりました。
「城壁の白い漆喰が塗りたての僕らの本丸、きっとここだ」
「大きな目の、小さな主。きっと、あのお方だ」
燭台切と長谷部にそっくりな者たちが喜びの声を上げて、次々に本丸の門を叩いていたのです。
「お、おい、あいつら、勝手によその本丸に入ろうとしているぞ」
長谷部はびっくりして、彼らを止めに走ろうとしましたが、小さな手がそれを制しました。
「大丈夫ですよ。少し見ていてください。この町で『間違い』の行動は消えてしまいますから」
平野がいたって冷静に言うので、長谷部も落ち着きを取り戻し、三人は黙って見ていることにしました。
すると、不思議なことが起こったのです。
「あれ、あの二人はどこへ行った?」
「見失ったか? 今の今まで、あそこの本丸の前にいたのに」
二人はきょろきょろと辺りを見回しましたが、あんなにそっくりな姿をしていた二人はどこにも見当たりません。
「彼らは『間違えた』のでしょう。だから消えたのです」
平野の言葉に、二人は首を傾げました。
「どういうことだ。あの連中はいったい何者だったんだ?」
「もしも、の可能性です。この町で主を見つけようとした、あなたたち」
「僕らの『もしも』?」
「はい。もしも彼らのように何軒も戸を叩いたって、主は見つからなかったんです」
平野はにっこりと笑いました。
「よかったですね。主を探す手間が省けましたね」
7.
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