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「そうだな。俺たちは主をお待ちしながらも、前に進んでいくことができる。俺が気付く今日この瞬間まで待っていてくれて、ありが」
その時、ちょうど長谷部の言葉を遮るように、燭台切と長谷部の足元から、にゃあんと鳴き声がしました。あの黒い猫です。
「君も、ついてきちゃったんだね」
「お前も一緒に帰るか」
長谷部は腰を屈めて手を差し伸べましたが、猫はまたにゃあんと鳴いて、長谷部の横を通り過ぎ、驚く燭台切の長い両足の間をすり抜けて、さっさと門の中へ入ってしまいました。
「先を越されちゃったね」
燭台切が肩をすくめました。いつも自信満々な燭台切が、少しがっかりしたような表情を見せるのは珍しいことです。ですから長谷部も、
「だな」
と短く言うと、それから猫の真似をして素早く燭台切の横をすり抜けていきました。
「あ、待ってよ、長谷部くん!」
こうして長い長いハロウィンの夜を彷徨っていた二人の姿は、門の隙間から差し込む2021年11月1日の朝日の方へ溶けていきました。
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