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「さて、あなた方はこの辺りで降りた方がよいでしょう。終点まで行ってしまえば、もう戻れません」
渡し守の指差す方は、海のようにも、雲の上のようにも見えました。
「よく見えないな。あそこはどこなんだい?」
「誰もがいつか帰る場所、とだけ聞いております」
長谷部ははっと顔を上げて尋ねました。
「人だけでなく俺たち刀も、帰る場所なのか」
「ええ」
渡し守は長谷部の方をちらと見て、それからまた終点の方へ視線を移しました。
「私は一度、あそこへ行ったことがあります」
「どんな場所だったんだ?」
「それもおぼろげな記憶ですが、私の目の前に巨大な炎が立ち塞がっていたのを覚えています。建物を一つ飲み込むほどの」
「建物を、一つ……」
復唱した長谷部の瞳がゆらりと揺れました。その目は、どこか遠くの方を見ているようです。
「そうして最後に私も炎に飲み込まれ、火の手の勢いに押し流されてこちらへ戻ってきた……」
「炎?」
「そうだ、あの炎は大坂城を焼いた業火。あの中には、私がお仕えしていた……」
24.
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